商人 #11
まじめに正直に継続する事こそが、5代目の修行です
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吉田珍果物本店
フルーツギフトコーディネーター
吉田 大祐
STORY
それはとてもシンプルな。
果物王国岡山にとってなくてはならない存在である吉田珍果物本店は創業明治22年という老舗の果物屋。その5代目(修行中)という大役を担う吉田大祐さん。どんな想いでこの店を引き継いでいるのだろうか。
2020年7月某日。吉田珍果物本店「吉英」を訪れると、せわしく桃の箱詰め作業が行われていた。まさに、桃のシーズン真っ盛りだ。店内には所狭しと出荷用の桃箱が積まれ、その中で大祐さんも全国各地に届けられる桃を1つ1つ丁寧に詰め込んでいた。
子供の頃から当然のようにこの店を継ぐものだと思っていたという。東京の大学に進学したのち、大手果物屋『新宿高野フルーツパーラー』に8年勤めた。「別に親に行けと言われたわけでもなく、コネクションがあるわけでもなく自分の意思で電話して履歴書を書いて門を叩きましたよ。」と大祐さん。そこには、受け継がれてきた吉田家の血がしっかりと流れており、稼業を継ぎ5代目になる修行の始まりだったといえる。
新宿高野フルーツパーラーといえば、新宿本店を始め都内を中心に何店舗も展開している人気店である。ケーキ屋の販売から始め各支店を回った後、本店の果物店に務めた。大きな組織の中で経験を積んだことは“吉田珍果物本店”のより細やかで丁寧な仕事にもしっかりと生かされている。
その後、岡山に戻り10年が経過した。「今はまだ5代目になるための長い長い修行中です。」5代目ともなると伝統と歴史を受け継ぐプレッシャーを当然感じてしまうなか、非常に謙虚で一方で前向きに割り切れている様子。
「特に気負うことはないです。もちろん、先代の方々に恥じないよう精進したいと思っています。でも、プレッシャーとか感じてもしょうがないし、考えても何も変わらない」と。一見穏やかに見える大祐さんから芯の強さを感じた。
趣味は2年前に購入したバイクに乗ること。
もともとそんなに興味はなかったのだが、バイク屋の近所によく配達に行っていて、何となくふらっと入ったところ「HARLEY-DAVIDSON(ハーレーダビッドソン)」に一目惚れしてしまった。
免許もなかった為、先にバイクを購入しその後に免許を取りに行ったのだ。
この行動力も今後経営者としての力量に繋がるのではないか。
月に2、3回ツーリングに出かけるが、仲間には年配の方が多く可愛がってもらうことも多い。
それも、大祐さんの人懐っこそうな人柄からくるのだろう。
全てが注文の数ですよね
「注文して頂いた方が誰かに贈るということは、一つの注文で贈るお客様とそれを受け取られるお客様がいるということ。両方の方に喜んでもらえることが嬉しいんです。」
丁寧な仕事をしていれば、結果は注文の数として表れる。これこそ正に仕事へのやりがいなのだと。
父から引き継いだもの
息子に引き継ぐ側である、4代目の父英二さん。「息子が継ぐことについては自然の流れだったよ。仮に他のことをやりたいと言っていたら、それは仕方ないと思っていた。でも、毎夏たくさんの注文があって家族総出で仕事をしている姿を子供の時から見て、素直に育っていたら、自然に継ごうという気になると思いますよ。私もそうだったからね」
やはり、大祐さんが引き継ぐことは、自然の流れだったのだ。
父英二さんはいち早くネットショッピング(楽天市場、ヤフーショッピング)
を取り入れている。もともと、東京、大阪のお客様が多かったし全国に商品を配達するという仕組みはすでにあったので、取り入れるのはそんなに抵抗もストレスがなかったのだ。そうやって全国に“吉田珍果物本店”のファン増やしてきた。
“まじめに正直に継続していくこと”
「今やっていることをまじめに正直に継続していくこと。これが一番の目標です。」このシンプルで真っ直ぐな言葉に頼もしい5代目の姿が見てとれる。今後も岡山の果物業界を支えている店舗のひとつとして5代目、6代目と引き継がれていくに違いない。
岡山の白桃やマスカットは限られた時期しか味わえない。丁寧に毎年変わらず生産される。だからこそ価値が高く高級品としての贈答物となっている。贈り物という大切な行事だからこそ、まじめな彼にお願いすれば安心である。
SHOP INFO
Text / Photo : Noriko Matsumoto