商人 #46
経年変化を纏えるセレクトショップ
SCROLL

VICICA
ジャパンカルチャラー
森 大起
STORY
「然(さび)」を着る
「寂れることも然るべく美しい」。
この言葉をコンセプトに掲げるセレクトショップが、VICICAだ。
ファッションの流行を追うのではなく、日本の伝統的な美意識、わびさびの「さび」に光を当てる。この「さび」は、風化していくさまに美しさを見出す心のこと。「寂」と書かれることが多いが、「然」とする解釈もあるそうだ。「然」には、内側から現 れる変化や風化、自然の摂理としての流れといった意味があるという。

オーナーの森大起さんは、現代的な捉え方では「然」がふさわしいと考え、美(び)と然(しか)を組み合わせて、店名を「VICICA」とした。
たとえば長く着込んだコットンの色褪せも、経年変化でしか生まれない味わいとして楽しめる。そんな服やファッションアイテムが、VICICAには並んでいる。

思想が合うアイテムを厳選
VICICAで扱うアイテムは、森さんがブランドの展示会に足を運び、ブランドの思想からアイテムの細部まで丁寧にヒアリングしたものだ。
一般的なバイヤーは、トレンド性や売れ筋を重視してセレクトし、効率を優先するため1つの展示会を1時間ほどで回ることが多いという。
しかし森さんは、「それではお客さんに商品の魅力を伝えられず、自分が洋服屋である意味がない」と考える。展示会では4~5時間ほどかけてアイテムを吟味して回る。ブランドの思想は、なぜ洋服の形がこうなっているのか、縫製はどうなっているのか、生地のこだわりは――そうした対話の末、VICICAのコンセプトに合うものだけが厳選され、店頭に並ぶのだ。
VICICAでは、店頭でもオンラインでも、作り手の思いや商品のポイントはもちろん、お手入れ方法まで詳しく紹介。服を大切に着たいという気持ちに応えてくれる。

東京での店舗オープンを経て、岡山に
高校生のころから、「自分のセレクトショップを持ち、オリジナルブランドを」と考えていた森さん。専門学校卒業後は1年間アルバイトで資金を貯め、まずはパタンナーを目指して上京した。「パターンを知っているかどうかで、服作りの過程も最終的な美しさも大きく変わるんです。」とその理由を語る。
目標を見据えて着 実にステップを重ねてきたように思えるが、本人は「見切り発進が得意な性格」と笑う。東京では軽やかなフットワークでさまざまな世界に飛び込み、多くの人と出会ったそうだ。良いことも悪いことも糧になり、人に恵まれた東京生活だったと振り返る。

28歳のときに、東京でセレクトショップを設立。百貨店やファッションビルでの期間限定ショップからスタートし、声をかけられて調布PARCOの1階に店を構えた。
はじめの2か月は順調だった。しかし、3か月目にコロナ禍に見舞われる。施設が営業停止となり、再開の目処も立たないまま3か月が過ぎた。
「やりたいことは間違っていない」という感触はあった。しかし、今後の状況を考え岡山に戻ることを決意。5年で基盤を固めて、2023年にVICICAをオープンした。

旺盛な好奇心で多彩な才能を発揮
VICICAの2階には、ネイルサロン「glaw nail(グラウネイル)」がある。オーナーは森さんの配偶者である真帆さんだ。一癖あるglaw nailのデザインはVICICAのファッションとも相性が良く、結果として両方に通う人もいる。
森さんは、glaw nailとの関係を「お互いの表現の中で独立しつつ、関連がある状態。良い意味で関わりすぎていない、ほどよい距離感」と評す。洋服と美容という異なる面からお客さんに寄り添える点もいいところだと感じているそうだ。
性格診断では真逆で相性が悪いと出るらしい、おふたり。しかし、自身にない部分を相手から学び、お互いに変化しながら良い関係を築いている。

プライベートについて、お店にいない時間はどんなことをしているか尋ねてみた。「いない時間はあまりないんですよね」と笑いながら前置きしつつ、2匹の愛犬の散歩をしたり、アニメを見たり、夫婦で動画や映画を勧めあったりしているという。
趣味や今後やりたいことの質問には、キャンプや美術館巡り、釣りを再開したい、陶芸をしたい、とエネルギッシュな答えが返ってきた。そして、陶芸の話から「空間デザインも仕事にしたい」とシームレスに仕事のビジョンへとつながっていく。最近始めたという生け花も、お店のディスプレイに活かされている。VICICAの撮影やショーケースのDIYも森さんの手によるものだ。将来の役に立つから、と趣味で始めたらしい。
軽やかな好奇心により広い分野でセンスを発揮し、それがお店に息づいている。

服と店員との交流を通じて変われた思春期
―セレクトショップの夢を抱いたのはなぜですか?
小中学生のころは、人と話すのが苦手でシャイな性格だったんです。ネガティブなところを変えたい、殻を破りたいと思い、あえて友達が誰もいない高校を選びました。
当時は思春期でモテたい気持ちもあり、放課後は週5~6回ほど服屋さんに通いました。年上で専門職であるお店の方々と意見を交わしたことが、僕が変われたきっかけだったんです。なので、自分も「人が変わるきっかけを作れるようなお店を作りたい」と思ったのが原点でした。

町は「面白い」を楽しめる町
―表町にお店を出した理由と、開店してからの手応えを教えてください。
表町での開店の決め手となったのは、僕がやりたいことにマッチする街だと思ったからです。もし東京の最新ファッションを届ける店だったら、多分合わないと思うんですよ。けれど僕は、作り手へのリスペクトを重視しています。その感覚と、目が肥えている方が多い表町は、相性が良いと感じていますね。

地方のセレクトショップさんは、どうしても「今売れるもの」を提案して、無難でシンプルになりがちです。うちの服もシンプルに着回せるものは多いんですけど、素材やシルエットなどにコアなこだわりがあります。
この街では、そうした部分を「面白いね」とか「今は珍しいね」と、新しい感覚で好意的に見てもらえていると実感しています。

この時代にファッション業界に身を置く使命
―今後やりたいことはなんですか?
今35歳ですが、20代から30代にかけて、多くのブランドや縫製工場が姿を消していくのを目の当たりにしてきました。ファストファッションが広く浸透し、経済的な余裕も失われるなかで、「プチプライスでそれなりに見えるもの」が横行しすぎたと感じています。プチプラがすべて悪いわけではありません。プチプラも活用しながら良いものも選ぶ形がいいと思っています。でも、今は安価なもの「だけ」のことが多い。
僕自身も、安い服を買っていた時期がありました。でも、安い服は1~2年でだらしなくなり、着られなくなってしまう。一方で、20代のころに頑張って買った5~10万円くらいの服は、色褪せたとしても、それが味になっている。その違いを実感しました。
安いものをその時楽しむのもいい。けれど僕は、それだけでは生活の豊かさを感じられません。

だからこそ、縫製や生地まで丁寧に伝えられるお店で、良いものを見るための知識を提供することで、服を長く使うマインドを伝えたい。
ファストファッションへのアンチテーゼでもありますが、良いものも見るという選択肢が広がることは、これからの洋服業界にも文化としても大切だと思います。
おおげさに言うと、使命感があって。僕が洋服屋をやる意味は、そのマインドを届けたいから。そうでないと、今この時代に、わざわざ儲からない洋服の業界に身を 置く必要性はありません。

長く愛せる服を選ぶ喜び
店頭では、VICICAのために作られたドライ盆栽が来客を迎える。成長を終えた盆栽が、ドライならではの色使いを得て放つ、新たな美。そのさまは、VICICAが大切にしている「風化した先の豊かさ」を象徴している。
高品質な光学ガラスを使用した印象的な指輪、長綿にシルケット加工を施し上質な肌触りを実現したTシャツ、紐で留めるコート――。ここにあるのは、長く纏え、変化を愛おしく思える服やアイテム。こだわりや遊び心のあるアイテムは、人に語りたくなる魅力がある。
クローゼットの中に10~15年後もまた着たいと思えるものがある、豊かさ。劣化ではなくて「馴染んでいく感覚」を得られる、長年連れ添っていける良質なものだけを集めたお店。
着る人の日々に寄り添い、時を経ても心を豊かにしてくれる違いない。
SHOP INFO

VICICA
岡山市北区表町1-9-58
【Tel】050-8888-4285
【営業時間】12:00~19:00
【定休日】火曜
writer & Photographer
吉野 なこ
Naco Yoshino
フォトグラファー/デザイナー/ライター。
素敵な人やサービスやを応援したくて、撮ったり書いたりしている。倉敷市在住、ときどき旅人。美しいものを見るのが好き。
