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商人 #19

お客様のタンスの中身を把握する洋品店

2022年12月末 半世紀の営業を終了

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うみの洋品店

街の洋品店主

海野 一美

STORY

母から受け継いだ衣食住の“衣”の役割

婦人服店「うみの用品店」は表町商店街で約50年続く老舗の洋品店。洋裁好きの母が始めた店は、現在海野さんが2代目として引き継いでいます。豊かな暮らしをするためにも衣食住のうちの“衣”は人生において、とても大切な役割を担っています。女性は特に新しい服を買った時の高揚感は3歳の女の子でも感じます。長く常連客に愛されてきた店を守り続ける海野さんが大事にしているもの、そして外出が困難になったコロナ禍である「今」が最大のピンチであるという海野さんの現在の気持ちをお伺いしてきました。

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両親の背中を見て学ぶ

海野さんの母親は店を出す前に縫い子さんを集めて自宅で縫製の仕事をしていました。犬が交通事故にあって斎場に行く途中、偶然現在の店舗を見つけ、婦人服の専門店を出すことになりました。(亡き愛犬の導きでしょうか)

父親は当時、勤めに出ていましたが後に店をきりもりするようになります。海野さん自身は学校を卒業した後、1年神戸の洋服店で働き、24歳で岡山に戻り店を手伝うようになりました。
「父からも母からも何も教えてもらってはいない。ただただ、両親の背中をみて必死で仕事を覚えました。自然に父と母の意思を引き継いだと思っています。」

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お客様のタンスの中身を把握する

「一番大事にしているのは当たり前だけど、買いにきてくれるお客様を大事にすること。昔からのお客様が多いけど、ここに来れば色々楽しんでもらえるような服を揃えています。」
高齢になったお客様の中には、施設に入り本人が来ることはできなくなった方もいます。それでも海野さんのすごいところは、常連のお客様のタンスの中身は、大体想像がつくと言います。「どんな服が入っていて、どんなコーディネートが合うか頭に入っているので、本人が来なくても、アドバイスできますよ。もちろん、何十年前に買っていただいた服でも覚えています。」これは類いまれな才能ではないだろうか?と聞くと、少し照れたように「そんなことはないよ。常連さんなんだから分かりますよ」と。

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「実際に足を運んでくれるお客様もうちの服を着て来てくれるから、すぐに合わせやすいでしょ。これがデパートなどとは、絶対的に違う特徴だと思っています。事細かなアドバイスができますし、お客様の好みに合わせてお話ができます」

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「人間性を好きになってもらわないと服は売れないよ」

もう一つ海野さんが大切にしていることはお客様とのコミュニケーション。服選びの時間を楽しく過ごしてもらうことです。「家庭のことや、旅行のこと、体のことなど色々話してくれる方もいて、とても楽しいです。どんな服を提供するのかも大事ですが、店主の人間性を好きになって店に来てもらうのが一番だと思います。」

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ところが40年間商売をやってきて、海野さんにとって今最大のピンチを迎えているとのこと。2020年から長引く新型コロナウイルスの影響に伴う外出自粛で年齢層の高い常連客の足が遠のいているのが原因です。「飲食店も大変だとは思うが、私たちのような小売店も大打撃を受けています。目に見えないもの(ウイルス)と戦うのは本当に大変。今が踏ん張りどころですね。」

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やり方を変えないことがお客様を満足させる

それでも、今のやり方は変えずに頑張っていきたいという想いは強い。「何かを変えるのはあまり好きではありません。変わらない店舗づくりがお客様にとっても一番最適だと思っています。ネットストアという手段もありますが、直接お客様と話すことができないので、そういうやり方はしたくない。ちゃんと対面でコミュニケーションをとりながらご案内したいです。無理売りもたくさん買ってもらう必要もない。今までどおりのお商売をやっていきたいです。」

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次世代へつなぐ

現在は息子さんが2階で洋服店を営んでいます。
「息子は2階で、何をやっているかわからない。あまり話すこともないし、店を継いで欲しいといった話はしたこともないです。服の好みも仕入れのルートもよくわかってないよ(笑)」そういいながらも、海野さんの表情から息子さんを信頼しているからこそ、今後も任せられるということが伝わってきました。

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アスリート魂のストイックさが商売に繋がる

そんな海野さんは以前、スポーツマンとしても活躍していました。特にマラソンは県外の大会にも出場するほど。フルマラソンの自己新記録は“吉備路マラソン”での3時間41分。
さらに野球は70歳ぐらいまでピッチャーとして活躍していました。商店街でチームを作って一時期はリーグ戦に出たり3、4チームかけもちでやっていたこともあるそうです。
「中途半端なことをするのは嫌なので、今はもうスポーツはしません。やるなら本格的に体を作らないといけないから」と。海野さんのスポーツに対するストイックで完璧主義な気質が、洋服店を長く続けることに繋がるのではないかと感じました。

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どんなときも、風を変えていく。
その力こそが。

「できるだけ長くお店を守っていく。必要とされるまではずっと続けていきたいし、もう自分にはこれしかないからね。」
これが、海野さんのシンプルな今の想いです。
女性にとって服選びとは一生つきまとう重要項目の一つであり、楽しみでもあります。どんなふうに素敵なコーディネートをしようかワクワクしながら、お気に入りの服を選ぶことは一辺倒な時間に一気に変化をもたらしてくれます。それほど、女性においては大切な時間です。外出が制限される中でも、家でお洒落してお気に入りの服を着て過ごしたい。
海野さんのお店で素敵な洋服に囲まれながらそんな風に感じました。

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SHOP INFO
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  岡山県岡山市北区表町1-9-58

Tel   086-232-0661

営業時間 10:00~19:00

​定休日 火曜日

Writer  &  Photographer

松本 紀子

Noriko Msatsumoto

岡山県内を中心に主にフォトグラファーとして活動。
何気ない風景や、自然な表情をとらえる人物写真を得意とする。
Web媒体やフリーペーパーなどで地域の魅力を伝えるフォトライターとしても活動している。

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