商人 #16
夫婦でお互い尊重し合うこと。それが店を経営する上で大事な事です。
2023年12月末 78年の営業を終了
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しまや履物店
履物LIFEコンサルタント
島 榮一・早苗
STORY
一人ではできないことも、二人なら
人が靴を履くのは、単に機能性の追求だけではありません。日本の伝統的な履物文化には、独特な美しさのある下駄や草履があります。戦後まもなく開業した「しまや履物店」は、2代目夫婦が営む人気店。オープンな装いの店構えのため、道を聞いてくる人も多いとか。ついつい話しかけてしまいそうになるお二人が営む履物店、一体どんなお店なのか? お話を聞いてきました。
父から譲り受けた商売、自分に向いているか分からなかった
2代目店主・島榮一さんの父は、大阪の化粧品会社に勤めていました。戦後すぐに知人の勧めで、自ら商売を始めることにしました。当時は、新西大寺町に下駄を中心にしたお店を2店舗切り盛りしていました。10年した頃、現在の場所に移転したそうです。子どもの頃は、店を継ぐことは考えていなかったという榮一さん。「両親は、下駄の花緒をすげて販売をしていたので、とても忙しかったでしょうね。365日、仕事をしていましたから、私のことは放ったらかしにされていました。あまりかまってもらえなかったので、私は同じようにはなりたくないと思っていました」
大阪の大学を卒業後、関西で財務関係の仕事に就いた榮一さんでしたが、父が病気になり、20代後半で岡山に呼び戻されたそうです。「とにかく、私自身は商売が苦手です。妻が一緒にやってくれたから、長続きした。一人では到底できませんでした」と話してくれました。
事細かなオーダーまで対応できるのが「しまや履物店」
妻の早苗さんは「最初は、ちょっと手伝うぐらいに思っていました。お客さんの接客をするは大変だなあと感じる時期もありましたが、今は気楽にやっています。忙しく感じたこともありましたが、今ではずっと続けてきてよかったと思います」
現在は、靴の問屋が少なくなり、流通経路が変わったことで、量販店が強い時代。専門店の良さは、お客様へ細かくフォローができるところ。特殊サイズや材質などこと細かにオーダーを聞くことができます。「しまや履物店」の店内には、商品の8割以上が日本製の靴を揃えてある。常連のお客様もとても多いのだとか。
「量販店より安価に良いものが手に入ります。大衆性を貫き、ずっとコツコツやってきたので、世の中の景気にそれほど左右されることなく安定して商売ができました」と早苗さんは話します。
ふらっと立ち寄って顔を見にきてくれるのが嬉しい
「人と人との交わりの中で、気持ちよく接客したら、また来てくれます。会いたいと思って寄ってくれる人がいることが嬉しいです。家にわざわざ遊びに来る人は減りましたが、お店にちょっと顔を見にきてくれるのはありがたいですね」と早苗さん。穏やかな笑顔で迎えてくれるからこそ、ちょっと立ち寄りたくなるお店なのです。
そんな早苗さんの趣味は、自宅のガーデニング。「お家の庭に、季節の花を植えるのが好き。散歩する人たちが、花を見て声をかけてくれるのが嬉しいです。なので、お家には年中、花が咲いていますよ」
お互い尊敬し合うことが夫婦経営の秘訣
最後に、早苗さんにご主人の魅力を聞いてみると、「とても誠実なところ。どっちかというと商売には向いていないかもしれないけど(笑)まじめすぎるからね。夫婦で一緒に商売するってなかなか大変だけど、お互いを尊重することが一番大切です。これからも、自分たちのペースで、今まで通りやっていきたいと思っています」と穏やかな口調で話してくれました。
お二人は、お互いのことを空気のような存在だと話します。なくてはならない存在であり、かけがえのない存在であるということでしょう。お二人が醸し出す空気こそが、親しみやすいアットホームな雰囲気のお店を作り出すのだと感じました。