商人 #12
商いは牛の涎(よだれ)気長に続けていく
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岡山ラジオ
電気マイスター
村川 永次
STORY
デジタルの時代だけど、アナログ的に
村川永次さんが店主を務める『岡山ラジオ』は中之町商店街で開店してからおよそ73年になる。村川さんは2代目。いわゆる昔ながらの地域に密着した街の電気屋さんは、“電球ひとつでも取り替えに来てくれる”“テレビが映らなくなったら修理に来てくれる”そんなイメージだ。今回の取材では、電気屋さんとしての村川さんのお仕事をお聞きしながらも、取材の域を通り越し大好きなカラオケを少しばかり披露していただいた。
若い時は自分が正しいと思い込んでいた
戦後、中之町には『五合横丁』という百貨店があり、『岡山ラジオ』は父である先代が何か商売をしたいという想いから開業された。写真スタジオ、化粧品店、中華料店などバラエティに富んだ店がテナントとして入っていたが百貨店がつぶれてしまったのをきっかけに、各自店舗がそれぞれビルを買って現在のような独立した商店になった。
村川さんは15歳の夏休みからこの店を手伝い始めた。当時は10人ぐらいの従業員がいて、諸先輩について下積み時代を過ごし、18歳で学校卒業と同時に本格的に勤めるようになった。2階にあったオーディオコーナーを担当し、レコードプレイヤーなどの販売に携わっていた。昔は怒りっぽかったという村川さん。「若い時は、自分が正しいと勝手に思こんでいて、諸先輩方に諭されて後からそれは間違いだったなと気づくことがよくあった。」と穏やかに話す。
お客様から信用を得る為に自分の色をだす
27歳のときに先代が若くして亡くなり社長を引継いだ。いざ自分の代になると、父に比べて頼りなく、お客様から信頼されていないという苦労があった。「2世タレントと同じだね。なかなかお客樣に信用してもらえなかった。だから、“自分の色”を出そうと思った」村川さんの言う自分との色とは?「まずはお客様の要望に応えるのがベストってこと。自分自身が納得できる仕事とお客様の要望を叶える為にうまく折り合えるよう努力をした」
表町商店街全体で10軒以上あった電気屋が今は2軒しかない。大型量販店が増えたという理由だ。店をやめようと思う時期もあったというが、やめないでというお客様に励まされ、今に至った。そして現在また“街の電気屋さん”が見直されている。「価格競争の激しい量販店同士での争いで、安く売るだけでは、お客さんがついてこなくなった。うちはすぐに相談に乗って貸出もできるし、すぐ使えるようにしてあげられる。量販店だと、下請けの下請けが来るかもしれないし、誰がくるかわからんでしょ」お客様と密に接客できるのがやはりこの店の一番の魅力なのだろう。
商いは牛の涎(よだれ) 気長に続けていきたい
商店街は昭和50年代ぐらいから“空き店舗が増えてきた”など、色々問題があり、いつの時代でも様々な課題があった。「不安はいつの時代もあるし、今後もずっとあると思うよ。でもね、“商いは牛の涎(あきないはうしのよだれ)”って言うでしょ。気長に続けていくのがいいの。デジタルの時代だけど、アナログ的にゆっくり続けていきたい。あまり画期的なことをしてもあまり響かないかもしれないよ。今はまさにコロナの時代で価値観が変わって試練かもしれないけど、ピンチはチャンスと言われるので、みんなで知恵を出し合って、前を向いていかないといけないね」
カラオケはストレス発散
ここまで取材をして実は筆者が一番聞いてみたい“本題”に入った。村川さんは大のカラオケ好き。1日歌っていても飽きないという。夜に店で歌の練習をすることもあるそう。表町商店街の記念すべき第1回カラオケ大会では、“長渕剛の乾杯”を歌って優勝をしたという実力の持ち主。歌う一番の理由は“ストレス解消”。「アリス時代から谷村新司が好きだね。ギターの弾き語りもするから楽譜もいっぱい買ったよ。」と言って昔の懐かしい写真を見せてくれた。
今はスマートフォンのアプリでカラオケの歌詞をダウンロードして練習している。歌って欲しいという筆者の無茶な要望に応え、少しばかり歌を披露して頂いた。その美声は驚くばかり。「歌っていうのは、その時代ごとのシーンや感情を思い出したりできるのがいいところ。歌いながら涙ぐんでみたりするよね。」音楽好きの筆者も全く同感であり、ついつい音楽の話に花が咲いた。
買うだけでは終わらない、頼もしい存在感
町内の役員や民生委員などもこなし、地域の方から多大なる信頼を受けている村川さん。電化製品だけでなく、鳩やネズミ対策の相談までも引き受けてしまうのだとか。その面倒見の良さが村川さんの一番の魅力であり、『岡山ラジオ』の魅力なのだろう。電化製品は買うだけでは、終わらない。買った後の使い方や修理などは高齢化が進む日本では絶対に必要である。その中で、村川さんのような方には安心して相談できると感じた。
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Text / Photo : Noriko Matsumoto