商人 #5
珈琲は生鮮食料品
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COFFEE & PIZZA O-TO-YA
( オトヤ )
珈琲マスター
吉原 二郎
STORY
[ 魅惑的な階段 ]
中之町のほぼ中央、昭和の時代、純喫茶の代名詞ともなったテント生地看板が、さりげなく佇む。そこから吊るされた「自家焙煎珈琲」と手書き文字板看板の下の間口から、魅惑的な階段を二階へ登ると、期待通り、昭和の純喫茶を彷彿させるクラシカルで静謐な空間が現れる。街中の喧騒とは一線を画している。
始めた動機は「楽」そうだから
オーナーの吉原二郎さんは、御津町辛香峠や以前天満屋中地下タウンにあった老舗喫茶「二番館」で働いた後、15年前知人の紹介でここ中之町にお店を構えた。「この道に進むきっかけはかなり不純な動機でした。」とご自身が述懐する。学生時代喫茶店でアルバイトをしていて、ランチやディナータイムは忙しいけど、その間が暇だったので、本読んだり、漫画読んだり、音楽を聴いていた。ならばこの暇な時間、つまりアイドルタイムが主となる仕事なら「楽(らく)」でいいのではないかと当時思ってしまったようだ。もちろん自営業にとってその「楽」な時間は害悪以外何物でもないが・・・。
好きな音楽を聴きながら仕事がしたい
吉原さんに限らず何かを始める際、女の子に持てたい、お金持ちになりたい、有名になりたい・・・など、動機は大抵不純な場合が多い。言葉尻だけをとらえると一見不純な動機のように思えるが、店内ではビートルズ、エリック・クラプトン、シェリル・クロー、ビリー・ジョエル、エルトン・ジョン、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース、ダリル・ホール&ジョン・オーツなど60年代から80年代のポップが流れており、ジョン・レノン、ダイアナ・ロスのLPジャケットやローリングストーンズのポスターなどが壁にスリムに掛けられていることから推測するに、「楽」だからいいのではなく、「楽しい」からいいということだろう。
つまりゆったりとした時間の中で、「好きな音楽を聴きながら、好きな音楽に包まれて仕事を楽しくしたい」ということが本質ではないだろうか。不純ではなく、ご自身でも気づいていない「無意識」の動機なのではないかと推測する。「中学時代から音楽を聴くのが好きだったんです。実はフォークやニューミュージックとかも好きなんですが、お店ではかけません。何故かって?思わず口ずさんでしまうんです。」と吉原さんは、はにかんだ。なるほど、全く共感できる。
「こだわりがないことが、こだわりなんです。」と言われる吉原さんの唯一と言っていいこだわりは珈琲の「鮮度」だ。「珈琲は生鮮食料品なんです。だから新しいものが美味しいです」と。ブレンドに関しては焙煎してから2週間以内。ストレートでも1ヶ月以内のものを使用している。「美味しい」の秘訣は『煎りたて、挽きたて、淹れたて』。
珈琲は生鮮食料品
「ゆるさ」が売り
おすすめはそのブレンド珈琲。お昼はピザ、トーストなどの軽食も用意している。夜は19時までの営業。仕事の休憩時間や天満屋や商店街での買い物のついでに来られるお客さんが多いという。「高校生からおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い世代の方々に来てもらいたいです。仕事のことや嫌なことは忘れて、音楽を聴きながらのんびりしてもらえたらと思います。うちは『ゆるさ』が売りですので。」と吉原さんは言い切る。
「お年寄りや初めての方はここに上がってくる階段がネックのようなんです。この上に何があるんだろう?って、勇気を持って階段を上がってきて欲しいです。」とやはりゆるい、いや優しい眼差しで締めた。
SHOP INFO
Text : Yuichiro Tanaka / Photo : Sonoko Tanaka