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商人 #41

街角に響け、俺たちの味と音

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ノラネコ食堂

店長

岩田 圭司

Keiji Iwata

STORY

そこに灯る光とあたたかな飯

表町商店街と県庁通りのクロスポイントにあり、毛筆体で大書した看板が目を引く「ノラネコ食堂」。店主の岩田圭司さんは、ファストコア(※)バンド「IdolPunch」のボーカリストとして知られるバンドマンでもある。
※ハードコア・パンクのサブジャンル。ブラスト・ビートのリズムで極限の速さを追求するサウンドスタイルのこと

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飲食業としては、岡山市北区磨屋町で「RACCOS BURGER」、岩手県大船渡市で「RACCOS BURGER OFUNATO」、「ノラネコ食堂」の東隣と東京・渋谷区幡ヶ谷で「RACCOS BAR」、北区下石井の「杜の街グレース」で「727 Islands COFFEE BAR」を経営。みんなは店名に由来する「ラッコさん」の愛称で、岩田さんのことを呼ぶ。
そのほかにも、東京・神保町ブックセンター「喫茶センター」の料理のプロデュース、「FUJI ROCK FESTIVAL アーティストケータリング」の担当、全国規模の野外音楽フェスでの出店やケータリングなども手掛けるすご腕の飲食・催事請負人なのだ。

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多国籍な味のセッション

表町「ノラネコ食堂」の店内には、キッチンをコの字に囲むカウンターやテーブル席があって、湯気と活気に満ちている。「特別こだわりとか凝ったレシピとかはない」と岩田さんはいうけれど、行き交う人が次々と吸い込まれていくのには訳がある。

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メニューは、約50種類。たとえば、細麺にあっさりスープの中華そば、スパイスのきいたカレーライス、海南鶏飯(カオマンガイ)など、気取らずがっつける親しみやすい料理ばかり。夜は、あれこれつまんで飲める居酒屋に。和・洋・アジアンとジャンルにとらわれない食が交錯する、まるでジャムセッションのような店だ。
「学食とか、市役所の食堂みたいな敷居の低い食堂が結構好きで、そういう店を目指してます。『どこも行列だけど、時間もねえし、ノラネコでいいや』って感じの店でありたいな」
そんな、気取らない構えがいい。
「たとえば天満屋に夫婦で買い物に来て、旦那がくたびれてうちで1杯やる、みたいな使い方でいいのかなと(笑)。夜なら飲みの前にちょこっと寄ってもらったりね。そんな風に気軽に使ってもらえれば」

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その言葉どおり、開店して3年で、町のあらゆる人々が自然に集まる場所になっている。常連客が出会えば気軽に会話を交わし、それでいて程よい距離感が保たれている空間。「ラーメン屋で常連さんが店員とばっかり喋ってるとなんか居づらいじゃないですか。うちは、居心地よくて、帰りやすい店を目指してます」 
本音か冗談かわからないようなポーカーフェイスで話す岩田さん。

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街角に灯りをともしたい

「表町って、昼間は人通りも多くて賑やかだけど、夜はけっこう静かでしょ。『表町、夜はなんか寂しいよね』っていうイメージをちょっとでも変えていけたらなーとふんわり思ってます。そんな力があるわけじゃないけど、『あ、ここやってんだな』って思ってもらえるぐらいには頑張っていきたい」
表町で出店した経緯は、2018年に西日本豪雨にさかのぼる。実は、「ノラネコ食堂」の前身は、豪雨被害を受けた倉敷市真備町の復興支援の店だった。「どんな状況でも、温かいご飯を出すことが一番の支援だ」と考えた岩田さんが、真備の人々に少しでも元気を届けようと、明るい火を灯し、温かいご飯を出すことをミッションにして3年間営んできたのだ。
契約の3年間を終えて惜しまれながら真備の店を閉めて、次なる物件を探していたところ、現在の大家さんから「ここはどうか」と声がかかったのが今の場所。街の交差点のようで魅力を感じて出店を決め、2022年にオープンした。
「商売をし始めたときに、中之町の商店街の人たちが『一緒にやろう』って言ってくださったり、『仲間になろうぜ』みたいな雰囲気でアットホームに接してくれてね。そういうの今までなかったんで」と、商店街のイベントにも加わって楽しんでいると話す。

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ビートの原点は被災地復興

真備で「復興食堂」を開く以前も、岩田さんは数々の震災支援をしてきた経験がある。最初は阪神淡路大震災、そして東日本大震災や熊本地震での支援活動など、いずれも炊き出しを通じて温かい食を提供してきた。
「活動っていっても、自分はナチュラルにやっているんで。現場で別の支援が必要だっていう連絡が来る、それで次の支援現場に行く。そういう活動が広がっていっただけなんです」支援を続けるうちに地域との連携や情報の重要性を感じ、現在の支援活動へと続いてきたのだそうだ。
「ただね、『支援』って言葉が前に出すぎると重たくなるでしょ。だからあんまり謳ってはなくて。「これうまいね、どこの?」って思ってもらえるぐらいでいいかな」 岩田さんは、熱い思いは胸に収め、いたって淡々と、過去と今、支援と日常を繋いでいる。

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真備への想い込めた名物「かぐやもち」

そんな経緯で開店したため、「やっぱ西日本豪雨災害の時に生まれた店だから、表町に店を出すときも、真備の食材を多少置いてあるべきだなと思って」復興産品を押しつけがましくないスタンスで取り入れている。
名物「かぐやもち」もそのひとつ。真備産のタケノコを使い、真備の主婦たちが作る惣菜味噌「飯取物語」を載せた餅の天ぷら。それに自家製の醤油タレを絡め、海苔で巻いて食べる。シンプルながら味わい深い一品だ。
そのほかにも「ノラネコ食堂」や隣接する「RACOS BAR」では、「三陸産 イカ塩辛」や「岩手県奥州産 ニラ醤油豆腐」、「石川県産 ホタルイカいしり干」といった支援先の食材を使ったメニューも味わえる。

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「ちょっとした調味料や食材に被災地の産物を使うことで、訪れるお客さんにその地域のことを感じてもらえれば、それが僕にとっての支援の形です。話のタネで、『ああ、そんなことがあったよね』と思いを馳せてもらえるだけでいい」

「商売として飲食を考えたら、コストを抑えたり、味を良くしたり、メニューを工夫したりしますよね。支援活動ではもっとシンプルに、心を込めて、食べる人と一緒にその時間を大切にしています。食べ物を通じて、みんなで時間を共有するってことが大事。それが地域を元気にするための力になると信じている」と。

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“アイドルパンチ”で叫んだ30年

一方で、90年代初頭から活動を続ける「IdolPunch」のボーカリストとして、東京を中心に全国を回って幾多のライブをこなし、名実ともにキャリアを積んできた。今なお現役でステージに立ち、野外フェスや対バンライヴを主催する「RACCO」の名は、音楽業界でも知られている。

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「ノラネコ食堂」や隣接する「ラコスバー」の壁には、ともに音を鳴らしてきたバンドのサインやフライヤーが所せましと貼られている。「今もみんなと演(や)っているんだ」という証のようでもある。 
大きなフェスを控えた週末は、本業とライブの準備やリハーサルが重なり相当多忙だというが、苦にはならないそう。「バンド活動って結局、みんなが毎週草野球や釣りに行くのと一緒なんです。楽しみでもあるし、それがなかったら生活が物足りないって感じかな。生活でも仕事でもない特殊な時間に、自分の考えうることを積み込めて、発表もできるわけだから」 

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10月4日(土)、4日(日)には、RACCOS BURGERの開店20周年を記念して、「RACCOS BURGER 20th Anniversary I SCREAM FESTA 2025」の開催が決定した。2日間にわたりコンベックス岡山で県内外のバンドが集結する。出演アーティストやセトリは公式サイトをチェックしよう。https://raccosburger.com/iscreamfesta/

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誰かの「居場所」でありたい

店の仕込みを終えた深夜、機材車を運転して東京へ向かい、ライブを終えた翌日にはまた厨房へ。「バンド自体のキャリアは今年で31、2年。ラコスバーガーが今年20周年なんで、少なくとも20年間はこのスタイルで音楽と仕事を続けてきましたね。でも、バンドも店も、続けられるうちはやり続けたいよね」

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「耳で聴く音楽や目で見る絵、そして食べ物、つまり首から上の感覚に刺激を与えるものには、こだわって生きていきたい。だから、音楽も絵も食事も、なんなら支援活動も、僕にとっては欠かせない表現方法なんですよ」 なるほど、深い。


ふらりと立ち寄った人にとって、そこに灯る光とあたたかな飯が、ひとつの“居場所”になることもある。「『あそこ、まだやってたんだ』と言われるくらいがちょうどいい。長く鳴らすには、そのくらいがいいんよ」 音も、食も、熱くなりすぎず、でも確かに鳴っている。そんな等身大のリズムが、今夜も表町に響いている。

SHOP INFO
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   岡山市北区表町1-9-42

Tel  090-8509-5743

営業時間 11:30~24:00(OS23:30)

定休日 火曜日

SNS

Instagram @noraneko_shokudou
HP https://raccosburger.com/iscreamfesta/

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