商人 #6
帽子は客を選ばない
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万 京
帽 子
帽子専門家
鶴井 紀子
鶴井睦子(母)
鶴井和枝(祖母)
STORY
多くの役割を抱える「帽子」
「帽子」は古代エジプトの時代に王が冠をかぶり、庶民は頭巾を被っていたことが、遺跡調査でわかっている。日本でも原始時代には、帽子に似たようなものが既に存在していて、帽子のようなものをかぶったハニワが数多く発見されている。
「帽子」は実に多くの役割を抱えている。防寒や頭を守る安全上の機能的なものから、身分や階級の象徴を表すものになり、軍服、警察官、消防士、駅員、そして学生やスポーツなど組織や所属集団への忠誠を表すものを経て、近代では粋なファッションには欠かせない必須のアイテムとなっている。時代に応じて「帽子」の概念や目的が変わってきている。
映画の舞台に
終戦直後の1946年創業の帽子専門店・万京。社長の鶴井晃庸さんは4代目。お店は店長の鶴井紀子さんとその母・睦子さん、そして祖母の和枝さんと親子三代で営んでいる。岡山県が舞台となり2017年に公開された映画「桃とキジ」で、主人公の母が一人で切り盛りする帽子店のモデル及び撮影場所となったことでも知られている。Borsalino、DAKS、Wigens、STETSON、Mistral、ANGIOLO FRASCONIなど国内外など多数のブランドを取り扱っている。
蛮カラな制服からヒントを得て
創業当時は主に学生帽を販売していた。和枝さんの義父(亡きご主人のお父様)が戦後、上海から命からがら岡山へ引き揚げて来た際、第六高等学校の学生がマントを羽織ったり、高下駄を履いたりした蛮カラな制服を着ていたことからヒントを得て、学生帽を取り扱うようになった。学生帽のクラウン(頭にかぶる部分)部分をマントのラシャで作ったのが最初だという。当時は帽子の製造もしており、お店の裏に工場があり、たくさんの女工さんがミシンを並べていたようだ。
店名の「万京」は、万(よろず=たくさん)の人が京の都に集まるように、お店にも集まって欲しいと50年前に改名された。ちなみに創業当時は山陽製帽と名付けられていた。
家族で力を合わせお店を切り盛り
猫駅長「たまちゃん」の帽子も
「最近はこの辺りの小学校は制服じゃなくなってきたから当然学生帽もなくなるわなあ。なんかさみしいねえ。ちなみにあの「たまちゃん」(和歌山電鐵の猫駅長)が被っている帽子もうちが販売したものよ。」と、和枝さん。
20年前にご主人がなくなられてから和枝さんは従業員や娘の睦子さんと夫の晃庸さんなどの力を借りながら長年お店の切り盛りをしてきた。「小さい頃からここのレジの音を聞いて育ちました。大学時代に外に出ただけで、ずっとこのままなんです。」と、睦子さん。4年前に睦子さんが体調を崩したことから娘で現店長の紀子さんも本格的にお店を手伝い始めた。「後を継ぐ人がいないからということで、てごうしてくれるんじゃけど、大変な船によう乗ってくれた。」とうれしそうに和枝さん。
現在自社のウェブサイトや楽天の通販サイトは紀子さんが全て管理している。在庫管理、商品の撮影や紹介文などなかなかの労力とセンスを強いられる。「帽子の説明って難しいんです。被り心地は人それぞれ違いますから。来店して実際被ってもらうのが一番です」。しかし、いつもよくがんばってコメント(紹介文)を書いてくれていると和枝さんは褒める。
縫製技術は日本
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デザインは海外
今一番の旬はアメリカ発のブランドSTETSON。素材、仕立てが良く、芸能人御用達で、木村拓哉やジョニー・デップも愛用しているようだ。「デザインはやっぱり海外の方がいいね。女性物はかわいいし、お洒落だし。でも縫製がどこか雑な部分がある。その点日本のブランドは縫製が細かくて、きれいよ」と和枝さん。なるほど帽子一つとってみても日本人の長所と短所が垣間見える。
試着するうちにだんだん似合うようになる
帽子は客を選ばないようだ。「最初はなんとなく抵抗があっても、お店で20、30分脱いだり被ったりしているうちにだんだん似合うようになってきます。被り方が上手になるんでしょうね。あとは当店には種類、形、サイズ、デザインなどたくさんの帽子がありますので、お客さまにお似合いになるものを見つけてもらいやすいです。例えばパナマハットはクラウンの高さによって見え方が全然違うんです。1センチ単位で変わってくるので、だんだん自分に似合う高さのハットが出てきます。つば(ブリム)の長さでも似合う、似合わないがあります。」と紀子さん。帽子は客を選ばないが、客は帽子を選べるようだ。
ちなみに帽子を脱ぐ際、クラウンをつまんで脱ぐシーンが映画やドラマで見られるが、実は生地が割れやすく帽子を痛めることになるらしい。つばを持って脱いだ方が痛みにくいので、お客様には随時説明しているようだがなかなか浸透しないらしい。
ちょっとした修理は無料で・・・
「表町はわりかし近所つきあいがいいのよ。他のお店、例えば洋服屋さんがお客さんを連れて来てくれるんよ。もちろんこちらからもご紹介することもあるしね。」と和枝さん。ちょっとしたサイズなどの修理は無料でしてあげるという。しかも他所で買った帽子でも頼まれたら断れないそうだ。
帽子は「顔の額縁」とも言われるくらい顔を魅力的に見せる重要なファッションアイテムである。店長の紀子さんの的確なコーディネートにより、きっと自分に似合った魅力的な帽子が見つかる事でしょう。
SHOP INFO
Text : Yuichiro Tanaka / Photo : Sonoko Tanaka