商人 #31
地道に顧客満足度を追求するセレクトショップ
SCROLL
koka
エンターテイラー
三宅 直人
STORY
おしゃれな大人が信頼を寄せる審美眼
三宅直人さんは、18歳からファッションの仕事に携わってきた。15年ほど他のセレクトショップで修行した後に、2002年に独立しセレクトショップ「koka」をオープン。目の肥えたおしゃれな大人に、特に品質と接客が支持されている。
長く取り扱っているブランドのひとつが「GUY ROVER」。北イタリアを代表するシャツブランドだ。確かな縫製技術を持ち、国内外問わず多数のブランドのOEMも請け負っている。
既製品だけでなく、オリジナルスーツのオーダーメイドもできる。
エンターテイメントと二足のわらじ
三宅さんは、高校卒業から今までのほとんどの期間を表町で働いてきた。そしてkokaを営む傍ら、岡山市街地をエンターテイメントを通じて活性化する団体「表町キュレーションズ」を主宰。タレント・俳優・バンド・インフルエンサーなどの活動を支援している。
本人もタレント名「岡山まる子」としてYouTube番組等に出演しており、表町の顔のような存在と言えるだろう。
おかっぱで丸メガネ。一見、キャッチーで軽やかな印象かもしれない。しかし話を聞くと、服を愛しひとりひとりとじっくり向き合う、地道で実直な仕事ぶりが光る。
唯一無二のセレクトを
―kokaではどのようなファッション品を扱っていますか?
販売品はイタリアの商品が中心です。ただメンテナンスが必要なバッグ等は、国産の良いものを仕入れています。あとはオーダー品ですね。
他のセレクトショップでは、「このアイテムはこのメーカー」とか決まっている場合が多いんですよ。そういうのが嫌で、唯一無二な「僕ならでは」のセレクトをしています。
別の店で働いていた18歳のころから、40年近く来てくれているお客さんもいるんですね。年齢とともに生活や好み・映えるものも変わるので、お客さんの人生に合わせてセレクトも変えています。
―仕入れる商品はどのような基準で選んでいますか?
品質・感度・価格帯のバランスが取れているものですね。
表町しか発想になかった
―ファッションに携わる仕事の中でも、セレクトショップを選んだのは何故ですか?
服全般が好きで、「服に囲まれてる状態」が好きなんですよ。服にうずもれて寝たいタイプ。勤めていたときは、買ってばかりで大借金していました。
―開業する際、表町を選ばれたのはなぜですか?
今もですけど、「表町以外で自分の店をする」いう発想が、そもそもありません。表町が好きなんです。
お客さんに満足してもらえる提案のために、全力を尽くす
―仕事でやりがいを感じるのはどんなときですか?
高年齢層のお客さんは、好みが決まっていることが多いです。大きくは飛び越えられないんですけれど、僕は刺激として新しいものをお客さんが嫌がらない程度に少しずつ提案するんですね。それを買ってくださって、「評判良かった」と喜んでいただけるときが、1番嬉しい。自分の存在意義があるじゃないですか。
欲しいと思っている商品を売るだけだったら、誰でもできること。「僕の提案」を求めてくれてるお客さんが、長年懇意になってくれています。
1番の理念は「顧客満足度の追求」。そのためには、今まで買ってくれたもの、体型やライフスタイルを把握してないと駄目。20年間の情報がわかるように記して保管しています。
タンスの中の服とか、ウエスト何cmで股下何cmとか、多分お客さん本人よりも僕のほうがわかっているんじゃないでしょうか。
エンタメの仕事が服屋にも活きる
―kokaでの課題や気をつけていることはありますか。
新しいお客さんにも来ていただかないと、経営が成り立ちません。エンターテイメント活動を通じて、極力若い人の感性を吸収できるように努力しています。
勉強になることが多いんですよ。例えば今はトップメゾンもシルエットがルーズ。我々世代にはフィットしてないと駄目と考える人がいるし、僕もどうかと思っていた時期がありました。でも今はアリだと思いますし、時代性も取り入れています。
育ててくれた街に恩返しを
―エンターテイメントは昔から好きだったんですか?
昔は全く興味なくて、むしろ軽んじていたくらいだったんですよ。でも、デビュー直後の「ももいろクローバー」を見て、我々世代の昭和プロレスやドリフターズのネタをしていておもしろいなぁと思ったんです。そこからエンタメに興味を持ちました。
また、街づくりにもずっと興味がありませんでした。でも、年とともに自分を育ててくれた街に恩返しがしたくなって。自分にしかできないことを考えたときに、エンターテイメントを通じて盛り上げようと思ったんです。
―セレクトショップのお仕事は、プロダクション的なエンタメの仕事と通ずるものがありますね。
そうなんですよ。所属タレントは、他の人と被ってはいけないけど、向いている方向は一緒じゃないと駄目なんですよ。服の品揃えも同じ。よそとは違うけど、ハレーションは起こさないようにしています。
―今後の展望は?
一生現役で、死ぬまでお客さんとともに歩んでいきたい。顧客満足度を追求し、お客さんのことを考えて、アナログ的なこともきっちりやる。
今の時代、インターネットで発信するのもいいんですよ。けど、お客さんのライフスタイル全般を自分の頭に叩き込んで、お客様のために考えて提案する、どの世界でも大切なことじゃないですか。そういうことを若い人にも伝えたいです。
役者さんがステージで死ねたら本望だと言うように、僕は服屋で死にたいですね。
変わること、変わらないこと
kokaで扱うアイテムは、低価格帯とは言えない。それでも長年リピーターが多いことから、三宅さんの提案への信頼がうかがえる。
取材中見せてもらった顧客ノートには、几帳面な字でお客さんの情報が記されていた。
新しい分野に挑戦しながら、柔軟に変化してきた三宅さん。しかし、ファッション愛と、「自分だからできる、喜んでもらえる提案をすること」を真面目に追求する幹は、これからも変わらないのだろう。
SHOP INFO
岡山市北区表町1-9-49 オランダビル1F
【Tel】086-225-3077
【営業時間】11:00~19:00
【定休日】火曜日
writer & Photographer
吉野 なこ
Naco Yoshino
フォトグラファー/デザイナー/ライター。
素敵な人やサービスやを応援したくて、撮ったり書いたりしている。倉敷市在住、ときどき旅人。美しいものを見るのが好き。