商人 #25
2店舗のキッチンを同時に切り盛り。
不思議な店のユニークな店主
SCROLL
和ビストロ カパイ(Kapai)
DIY料理人
畑中 祥男
STORY
何をやるかは、「俺が楽しいか」
だけが唯一の判断基準。
昭和風情漂う内装。「和ビストロ Kapai」は、生姜焼きに、ハンバーグ、中華、ビビンパ、ロコモコなど、「和」に限らず多ジャンルの食事がいただける店だ。店主は、飄々とした佇まいで個性的な雰囲気を醸す、畑中祥男さん。
キャラクター、雑貨、そして飲食へ。
この建屋での商いの始まりは、戦後、焼け野原だった頃に、祥男さんの祖父母が開業した小間物屋。今の営業形態に至った経緯を伺うと「成り行きかな?」と、祥男さんは笑う。
祖父母の代はモノがない時代ゆえ、日用品を取り扱っていた。高度成長期に入ってからは雑貨を、その後、流行に合わせ、キャラクター雑貨を取り扱うようになった。キャラクタ雑貨は、店に置いておけば努力せずとも売れていたが、ブームは長く続かない。キャラクター雑貨を求めていた客も、徐々に大人の雑貨を求め始め、それに合わせるように祥男さんも和食器などを扱い始めた
「親父はキャラクターにしがみついていたけど、目先のことを見るんじゃなくて、根こそぎ変えてないと時代に対応出来ないって喧嘩していた。俺が店を継いで、思い通りに品揃え出来るようになったものの、世の中の流れについて行くのが大変だった」
100円均一の台頭で、100円の商品と一見変わらないデザインの和食器を販売するだけは厳しくなってきた。食卓全体で提案するべく、食品も少しずつ品揃えるようになったという。ナンの粉、シフォンケーキの粉など、何十種類も。しかし、祥男さんの好奇心は、ただ取り扱うだけでは収まらなかった。
「俺、のめり込む方で。そのうち、パスタを売りたいと思って、マカロニの抜き型を作ったの。イタリアと提携して」
なんと恐れを知らないチャレンジだろう。取り扱いたい商品を卸してもらうことが出来ず、それならばと、自分で作ることを決め、軽四の車一台分くらいの資金を注ぎ込み、抜き型を作成。大阪の製粉工場にアイデアを持ち込んだ。
「エビ、カニなどの抜き型。ほうれん草とかにんじんとかのパウダーで着色してね、…まあ、結果、めちゃくちゃな量が出来て、大失敗(笑) 」
在庫をたっぷりと抱えたが、祥男さんは、こんなことではへこたれない。雑貨の販売を減らし、徐々に店の半分を飲食店への切り替えていく。
「今考えてみたら恐ろしいんだけど、最初ベトナムコーヒーの店を始めたのよ」
ベトナムコーヒーを選んだことに特に深い理由はなく、雑貨店からベトナムコーヒーの店に切り替え、夏を理由にかき氷もセットで売ったのだという。その時の店の看板には、「アジアのデザート茶館」と掲げ、今もKapaiの店舗内に飾られている。
「でも、やっていけるわけないじゃん。コーヒーを飲みに来た人が『ベトナムコーヒーしかないの?』ってトンボ帰りしていたから。寒くなると、かき氷も食べないじゃないですか。で、ランチでも始めようかって」
とんでもなく場当たり的な道のりだ。ランチ提供にあたり、最初に用意したのは、5合炊きの炊飯器とカセットコンロ。祥男さんは、肝心の料理について、まったくの素人だったというから、さらに驚きだ。その時、祥男さんは40代。料理教室に通うでもなく、誰か知り合いに習うでもなく、朝の情報番組の料理コーナーを毎日見て、見よう見まねで練習を重ねたという。こういうところが、祥男さんの憎めなさを生んでいるのだろう。
キッチンはひとつ。裏の顔は、ハンバーグ屋。
行き当たりばったりな人生を一番象徴するのが、「ハンバーグ109」の存在。なんと、Kapaiと同じキッチン、同じスタッフで、ハンバーグ屋の看板を掲げて営業しているのだ。中之町商店街からKapaiに入り、キッチンからさらに奥へと進むと、ハンバーグ109の店舗がある。中で完全に繋がっているけれど、それぞれの客には、まったくその素振りを見せることなく営業している。
「俺、飲食始める前に、すごい気に入ってたハンバーグ屋があって。その店が閉店して、もう食べれんのじゃって思って。そしたら、もうええわ、自分でやろうって思って、大将が焼いていたハンバーグを見よう見まねで再現して。もう、10年近くになるかな」
当然だが、1つのキッチン、1店舗分のスタッフの元に、ハンバーグ、生姜焼き、かき氷、コーヒーなど2店舗分のお客さんから注文が同時に入る。祥男さんは、「気が狂いそうになる」と言うが、全部自分で始めたことだ。お客さんは、まさかもう1店舗同時に切り盛りしているなんて知らないんだから。
「すっごい恥ずかしい時あって、ハンバーグ食べた人が、ぐるっと回ってKapaiの方から入って、お茶しに来てくれる時あるんですよね。『あら?』って、なって。笑ってごまかすしかない(笑)」
親子それぞれ、商店街に関わって。
祥男さんは、お父さんと喧嘩しながら、徐々に自分のカラーに店を染めてきた。店を継ぐことはなく、経営コンサルの仕事に就いた祥男さんの息子の啓司さんは、Kapaiとは少し距離を置きながらも、理事として中之町商店街に関わり始めた。啓司さんは啓司さんで、祥男さんとは違う自分の視点で、商店街の今後を考えているという。そんな啓司さんの姿を、祥男さんは内心喜んでいるようだ。
何をやるかは、「俺が楽しいか」だけが唯一の判断基準。周囲の状況を受け止め、自分の感覚で柔軟に適応していくKapaiの今後が、これからも楽しみだ。
SHOP INFO
岡山県岡山市北区表町1-9-48
【Tel】086-222-5585
【営業時間】
昼 11:00~15:00
夜 18:00〜22:00(完全予約制)
【定休日】
火曜日
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もめ
writer
PLUS
内田 伸一郎
Photographer
約10年に渡り岡山の山村エリアで暮らし、宿の女将を経験。自分の人生と感覚を観察して、文章を書くことが好き。現在は京都を拠点にクリエイティブディレクションや、コミュニティの運営、ライティングなどを行う。