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商人 #22

料理人一筋30年
実家の呉服屋の名を継いで

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天婦羅 ふたば

天婦羅の匠

岡本 浩直

STORY

やっぱ揚げている時が一番。

角刈りのヘアスタイルに白い調理服。口数は少なく控えめな振る舞い。

天婦羅 ふたばの大将、岡本さんは、私たちが抱く「和食の職人さん」のイメージに違(たが)わない印象だ。

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昼は定食を、夜は一品料理と共にお酒も楽しめる。テーブル3席とカウンターの店内は、清潔に整っている。岡本さんが黙々と天婦羅を揚げ、接客など店内のことはパートの方が担う。
 
「僕は、普段から表に出て、お客さんと話すことはこれまでもなかったから…。スタッフの皆さんは、お客さんとのやりとりに慣れているから任せています。僕は天婦羅に専念しています」
 
お邪魔したのは、昼と夜の営業の合間。片付けが行われている店内で、岡本さんと話をした。ほどなくして、「大将をよろしくお願いします」と、昼の営業を一区切りつけたパートさんが、私ににっこりと挨拶して帰っていった。寡黙で優しい岡本さんを明るいスタッフの方が支え、ふたばが営まれていることが垣間見え、温かい気持ちになった。

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共働きの両親ゆえ、
飲食店で夕食を済ませていたことがきっかけ

岡本さんは、高校卒業以来、約30年間、料理の道を歩んできている。自分の店を持つのは初めてで、ふたばをオープンして約5年を迎えた。
 
「実家が呉服屋さんで、親が帰ってくるのが遅いことが多かったから、住んでいたマンションの1階にある飲食店でご飯を食べることが多くて。その店の職人さんと結構仲良くしていたんです。職人さんが、仕事の合間、裏でお酒飲んだり、タバコ吸っている姿見てて、『この仕事なら自分も出来るかな』って思ったんですよね。実際、そんなに甘いわけもなく、厳しい道でしたけど(笑)」
 

 

たまたま通った飲食店で、料理人の姿、それも休憩中の姿を見たことをきっかけに料理人になったという岡本さん。始めるきっかけは些細なことであっても、ずっと続けているわけだ。まさに継続は力なり。淡々と腕を磨き続けて、自身の店を持つことが出来た。

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「ふたば」の名は、実家の呉服屋から

店の名前は、実家の呉服屋から継いだ。
 
「呉服屋は、もう畳んでいたんで、単純に名前があるから使おうかなと。由来は…特に聞いたことないんですよね。店を始めるなら、店名は、自分の名前から『岡本』にするか、呉服屋からもらって『ふたば』にするか…どちらかしか思い浮かばなかったからなんですけどね」

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岡本さんは、料理以外の部分については無頓着というか、あっさりしている。岡本さんが大切にしていることは、言葉よりも、天婦羅を一口、口に運んだ時に伝わっていくのだろう。
 
メニュー表には、「店主からのご挨拶文」が書かれているが、主張の少ない岡本さんに代わり、弟さんが代筆し、メニュー表自体も、弟さんが制作されたとのことだ。岡本さんの人柄を思うと、そんな不器用なところも愛おしく感じる。

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職人と商売人のハイブリッド

料理についても、飾り気はなく、実直なスタイルだ。
「変わったことはしない方がいいと思っているんです。修行期間中、基本を職人さんから教わりました。自分で何かを変えた時よりも、教わったことをきっちりやっている時の方が、美味しい気がするんです」

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岡本さんは、腰が低く、謙虚な印象だ。
「どちらかと言うと親が商売、呉服屋やっていたので、誰かと会うと、頭パッと下げる方なんです。僕が修行中出会ってきた職人さんって、『自分から頭下げるもんじゃねえ』といった感じで、相手から頭下げてきたら、軽くどうもって会釈するくらい」

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自分の店に、「ふたば」と名付けたのは、他に選択肢がなかったからと言うけれど、実家が呉服屋であったことは、岡本さんの起点であり、のれんに掛ける名として適当だ。親が商売人で共働きだったことがきっかけで飲食の世界、職人さんの裏の姿を覗き見て、足を踏み入れた。職人さんの元で修行して技術を磨いたが、商売人の息子としての身体感覚も染み付いている。

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淡々と仕事に向かい合っている、岡本さんの心が喜ぶ瞬間とは。
「やっぱ揚げている時が一番。もともと、多分天ぷらが好きなんでしょうね。」
 
岡本さんが楽しみながら揚げた天婦羅を食しに、ふたばへ足を運んで欲しい。

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SHOP INFO
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  岡山県岡山市北区表町1-10−64

 

【Tel】086-221-7101

【営業時間】

昼 11:30~14:00 (L.O. 13:45)
夜 18:00~21:30 (L.O. 21:00)

【定休日】

水曜日、第3木曜日

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​もめ

writer

PLUS

内田 伸一郎

Photographer

約10年に渡り岡山の山村エリアで暮らし、宿の女将を経験。自分の人生と感覚を観察して、文章を書くことが好き。現在は京都を拠点にクリエイティブディレクションや、コミュニティの運営、ライティングなどを行う。

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