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商人 #34

夢の途中

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en. 珈琲焙煎所

Smile coffee team

鈴木一穂・明日美

STORY

この笑顔は並じゃない?!

県庁通りから中之町商店街に入り、歩き始めるとすぐに芳ばしい珈琲の香りが漂ってくる。その香りのする方へ誘われると、木を要所に使った小さくまろやかでやさしく明るい空間がある。そんなお店を覗くと、やっぱりやさしそうで明るい笑顔のご夫婦が。オーナーの鈴木一穂さんと妻の明日美さん、そして店長の松岡さんだ。とかく奥様の笑顔は並じゃないことがひと目でわかる。それもそのはず、明日美さんは元某大手航空会社のCA(キャビンアテンダント)だったそうだ。なるほど!

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こんなはずじゃなかった

「en. 珈琲焙煎所」はコロナ禍の2021年8月にここ中之町に新規オープンした。たくさんの「ご縁」が店を通じて広がって欲しいという願いを込めて「en」と命名した。この素敵な笑顔の持ち主にも関わらず、意外にもサービス業のリアル店舗を出店するのは初めてとのこと。「いやー実はこの年(30代前半)で珈琲店を開く予定はなかったんです。老後に二人で小さなお店を営みながら、のんびり暮らそうと、将来の楽しみにしてたんです。」と一穂さん。ではなぜコロナ禍に? 二人のこれまでの人生を辿れば、この時期での出店は必然だったようにさえ感じる。

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珈琲の香りですごく幸せな気分に

それまで一穂さんはECサイトの会社を運営していた。岡山で生まれ育って、隣県の西宮市にある大学へ入学。ちょうどウェブサイトで物販ができるようになった時代で、4年生からEC サイトを立ち上げ、大学卒業後も事業を継続していた。ほぼ外に出て客と直接会うことなく、自宅で黙々と仕事をしている毎日だった。たまに外出すると言えば、近くの喫茶店に行くくらいなのだが、そこの喫茶店で運命的な出会いをすることに。お昼ご飯にナポリタンスパゲッティかカツサンド、そして珈琲をいつも頼んでいた。その珈琲の香りが一穂さんにとってたまらなく芳ばしかった。その匂いを嗅ぐ度に、どんどん夢中になって行く自分がいたと言う。とうとう豆を買って帰り、自分でも淹れるようになった。「煎りたてってこんなに香りが良くておいしいんだなと、すごく幸せな気分になりました。」と述懐した。

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CAは英語と接客と旅ができる

一方明日美さんは高知県四万十市出身。東京の大学を経て元某大手航空会社へ就職したが、最初からCAを目指していた訳ではなかったようだ。目指すきっかけは大学時代にスターバックスでアルバイトを長期間していたことと、一年間のアメリカ留学を経験したことだと言う。なるほど、奥様の笑顔はスターバックスで鍛えられたのか!と思ってしまうが、スターバックスにはいわゆる接客マニュアルはないらしい。一杯の珈琲を通して、どれだけお客様に喜んでもらえるのか、価値を提供できるのかを自分自身で日々考え、実行して行ったと言う。東京地区内で接客面の評価の高い店舗だったこともあり、とても鍛えられたそうだ。

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また英語はもともと好きだったが、ニューヨークとシアトルでの留学を経て、より使えるようになり、さらに楽しくなってきた。中学・高校の教員免許も取得したので、学校の先生になることも考えたが、接客することが苦にならず心底楽しかったので、教育現場よりは接客業かなと感じたようだ。その上元来の旅行好きも高じて、接客も極められて、英語が使えて旅もできる。明日美さんにとって一石三鳥ともなるCAを選択したのは必然であろう。

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二人は一穂さんの友人が企画した食事会で出会った。その後、東京に住む明日美さんが一穂さんの住む大阪へフライトで来た際に連絡を取り合う仲になった。食事を何度か重ねるうちに、二人の距離はより縮まり、めでたく結ばれた。

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リアル店舗で人と人の触れ合いの大切さを感じる

家族との時間を大切にしたい、子育てに専念したい、と言う想いもあって明日美さんがCAを辞めた後、二人の特技と趣味を活かし、旅行系のWEB サイト「元CAが教える海外旅行の情報メディア『トリップアテンダント』」を立ち上げた。しかし・・・
明日美さんが今まで旅から学んだことや体験したことなどを多くの方に伝えたいと思っていた矢先、新型コロナの流行により人の移動が制限された。もちろん海外旅行も制限されたため、旅行について検索する人がみるみる少なくなり、ウェブサイトのアクセスも10分の1にまで激減した。

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これはさすがにやばいと思ったと言う。ウェブサイトだけを収入源にしていたら、非常事態を乗り越えることができない。その土地にしっかり根付いて、地元の人と触れ合いながら商売をしなければ、この危機を脱することはできないのではないか?と真剣に考えるようになった。そして老後に二人でやろうと思っていた小さなお店を前倒しして今やってしまおうということに。
もちろんコロナ禍ではリアル店舗でもダメージはあるだろう。しかし自分達の想いを掲げ、心からお客様のためを想い、誠心誠意やっていれば、きっとお客様は来てくれるはずである。そう二人は信じてここ中之町に店を構えた。珈琲の魅惑に憑りつかれていた一穂さんと、接客業を極めた並の笑顔じゃない明日美さん。それに持ち前の二人の行動力を加えれば、開店後の盛況ぶりも至極当然のことだった。

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目の前でお客様に喜んでもらえるうれしさ

人と人が接する機会が少ないネットビジネスが隆盛の今日ではあるが、コミュニティと言う人の原始的で普遍的な概念に立ち返ったのだ。見事にそれが功を奏した。
リアル店舗を持ってどうですか?との問いに、一穂さんは「とてもいいです!」と即答した。「お客様が目の前で喜んでくれることがとても新鮮でした。直接言葉で『おいしい!』って言っていただけてすごくうれしいです。今までずっとWEB でやってきたので、お客様と直接つながることが少なかったんです。“おいしい”ってたった4文字の短い言葉ですが、言われてこんなにうれしい言葉は他にないですね。自分も積極的に言わなくてはいけないとも思いました。」

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お店の前をよく通っている90歳くらいのおじいちゃんが泣きながら「がんばってな!ここいいね!やめんといてよ!」と言ってくれたこともあったし、いつも来てくれるおばあちゃんとの触れ合いもうれしいと言う。これはリアル店舗を持っていないと絶対体験できない感覚だろう。まさに禍が転じて福となった。

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お客様の好みを深堀することが使命

店内には南米やアフリカなど世界から取り寄せた30種類もの珈琲豆が所せましと並ぶ。たくさんの種類を揃えてその中からお客様に好きなものを選んでもらうというスタイルだ。「『おすすめは何ですか?』と聞かれることもありますが、僕のおすすめは基本的にありません。逆に色々お聞きしてお客様がどういう味を求めていらっしゃるのかを深掘りするようにしています。僕の好みを押し付けても仕方ないですから。お客様のことを第一に考えたら当然のことだと思います。」

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4種類のカフェインレス珈琲豆

そして中でも特徴なのが、30種類のうち4種類がカフェインレスの珈琲豆であることだ。普通のお店では置いてあっても1種類ほどで、カフェインレスを置いてないところも多い。これは3児の母でもある明日美さんの妊婦時代の経験から着想を得たもので、妊娠中でも珈琲が飲みたいと言う方にはうれしい。

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オーガニックな市場に

先日4月27日に高知市帯屋町商店街の一角に2 号店をオープンした。一穂さんの出身地である岡山に続いて、2店舗目を明日美さんの出身地である高知に出店したのは、その街に育ててもらった恩返しとその地をさらに活性化させたい気持ちが強いと言う。「今後は神戸や岡山駅前などにも展開して行きたいですね。そして将来的にはオーガニックな市場を広げていき『en. organic(エンオーガニック)』と言う形にしたいんです。現代の食品には添加物が入っているものが多く、入っていないものを見つける方が難しいですから。自分達や子供達が安心して食べられるものを見つけ、世の中にも提供していきたいです。今やっている珈琲はその足掛かりです。」と明日美さん。


珈琲焙煎所は二人にとって、まだまだ夢の途中のようだ。

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珈琲焙煎所がおすすめする
「無添加グラスフェッドソフトクリーム」

「グラスフェッド」とは、自然の環境で放牧され、牧草のみで飼育された牛のことです。島根県にある牧場に実際に足を運んで、飼育環境や牧場主さんのお考えに感銘を受けたので、仕入れて販売することにしました。自然な環境でのびのびと育った牛のミルクと砂糖だけで作られていて、ほかに余計なものは入っていません。だから自然な感じの甘さでとても食べやすいです。是非ご賞味ください!


by 店長 松岡

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SHOP INFO
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  岡山県岡山市北区表町1-10-28

 

【Tel】086-238-7703

【LINE】@en.coffee

営業時間】11:00~18:00(焙煎L.O.17:45) 

【定休日】火曜日

【URL】https://en-coffee.jp/

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田中 雄一郎

writer

PLUS

田中 園子

Photographer

クオデザインスタイル代表
グラフィックデザイナー/ブランディングディレクター

1975年岡山市生まれ。立命館大学理工学部卒業後、都市計画コンサルタントを経て、2004年QUA DESIGN style設立。同時にデザインを独学。
現在岡山を拠点に北は北海道、南は沖縄まで、教育・医療機関、公共施設、美術展、交通、建築・建設、農業、アパレル、町など様々な分野のブランディングを手掛ける。
主な仕事に岡山大学シンボルデザイン、倉敷市立短期大学ロゴマーク、福武教育文化振興財団CI、琉球大学医学部附属病院関連プロジェクト、まび記念病院、
宇野バス、岡山後楽園バス、蜂谷工業のVIなど。主な賞に東京TDC賞PrizeNominee、JAGDA賞ノミネート、東京ADC、世界ポスタートリエンナーレトヤマ入選など。
共著に「ロゴデザインの現場-事例で学ぶデザイン技法としてのブランディング」(MdNコーポレーション)

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