商人 #28
地の素材を使って丁寧に洋菓子を作る
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シェ*クマリ
Chez kumari
Sweetheart Creater
赤坂 真里
STORY
ほっとする素朴なお菓子の工房
赤坂真里さんが主宰する「Chez kumari - シェ*クマリ」は、上質な素材の洋菓子を作る工房だ。受注生産とイベント販売のみで、店舗はない。それでもリピーターが多く、パウンドケーキ、ブール・ド・ネージュ、フロランタン……と工房では多彩なお菓子が続々と作られる。
動く高級旅館と呼ばれる客船「guntû ガンツウ」でも、Chez kumariの焼き菓子が提供されている。東京でミシュランの星も獲得している大将が気に入ったその味は、舌の肥えた宿泊客にも好評のようだ。
豪華客船で提供と聞くと、きらびやかなお菓子を想像するかもしれない。しかしChez kumariのお菓子は、素朴でほっとするあたたかさがある。
Chez kumariを主宰する赤坂真里さんは、小学生のころから趣味でお菓子を作っていたそうだ。あるカフェオーナーに「うちで売らない?」と誘われたことがきっかけで、お菓子を販売するように。赤坂さんのお菓子の評判は徐々に広がっていった。
しばらくは看護師と兼業でお菓子作りをしていたが、お菓子一本に。2016年12月に中之町商店街内の「表町ギャラリー跡」に工房を構え、2021年4月には現在の「表町ライフ」内に移転。「表町ライフ」は、中之町商店街直営のテナントミックス施設で、現在4社が入居中だ。
話を聞きに工房を訪れると、たくさんのくまのぬいぐるみとともに、赤坂さんが朗らかに出迎えてくれた。
ご縁がつながって商店街に
―なぜ商店街の中に工房を?
ご縁なんです。職場を辞める数日前に、たまたま中之町にあるアートスペース「テトラヘドロン」さんを訪れました。工房用の物件を探していると話していたら、その場でどんどん人が人をつないでくださって。信頼できる方々がつないでくださったので、紹介された物件の中から安心して選んでこの場所に決めました。
―商店街に工房を構えてよかったことはありますか?
商店街の人たちが、親身になってくださる良い方ばっかりなの! 入居時からバックアップしてくださって、ずっと気にかけてくださるんです。また、歴史のある商店街だから、表町に工房があることで信頼も得られますね。
地産地消のお菓子
―お菓子作りのこだわりを教えてください。
簡略化せずに丁寧に作ることを心がけています。また、素材選びも大切にしています。
―地産地消をベースにした経緯は?
岡山の西大寺で採れたハチミツを食べたときに美味しくて驚き、まずこのハチミツを使うことにしました。小麦粉はいろいろな粉を試したんですけど、外国産の高級な小麦粉は、味に合わなかったんです。わたしのお菓子は、素朴なお菓子だから。岡山県産のちょっと重めの小麦粉がマッチしたのでそれを使おうと決めました。
その土地の食材は新鮮ですし。他の素材もできるだけ岡山のものを選んで、今の状態に整いました。
期待に応えるため頭をひねる
―お菓子作りをしていて嬉しいときは?
やっぱり「美味しい」って言ってくださったときです。また、買ってくださる方と仲良くなったり、買いに来られた方同士がつながったりするのも嬉しいですね。作る作業は反応もわからず孤独だから、交流はご褒美。その時間のおかげでがんばれます。
―商品ラインナップはどうやって考えていますか?
お客様からリクエストがあるんですよ。「カヌレ作れる?」とか「アレルギーのある家族がいる」とか「小豆を使ったケーキがほしい」とか。ご要望には応えたいから、頭をひねって作ります。評判が良くて定番化したものもあり、ちょっとずつ増えてきました。
店舗がないので、買ってくださったりイベント出店に声をかけてくださったりしないと作れません。期待に応えたいし、ご縁を大事にしたいです。
質を落とさず作り続けたい
―趣味はなんですか?
音楽は、聴くのも演奏するのも好きです。昔はバンドでベースを弾いていて、今はピアノや鍵盤ハーモニカを弾きます。アルゼンチンタンゴを聴いたり、絵やバレエなど綺麗なものを見たりするのも好きですね。趣味と言えるかわかりませんが、クラシカルなファッションやものが好きで、車はミニクーパーを修理に出しながら28年乗り続けています。
販売イベントを通じて知り合った作家さんの個展に行くのも、趣味のひとつ。看護師時代とは真逆な生活で、今でも驚いています。
―今後やりたいことはありますか?
今が一番幸せなんですよ。「もっと広げたら?」「お店をはじめたら?」と言ってくださる方もいるんですが、質は落としたくありません。正直今が手一杯、かつありがたい状況なので、ずっとこうやって作れたらいいなと思っています。
人を想って作る、心和むお菓子
インタビュー中、赤坂さんの口から、何度周囲の人への感謝と尊敬の言葉を聞いただろうか。記事の上では短縮したが、「本当にありがたくて」「すごく良くしてくださって」といった言葉が絶えなかった。
人について、お菓子について、食材について。赤坂さんは、気持ちのこもった笑顔で語る。
工房の随所に見られるくまと、ほっこりするイラストやパッケージと、温和で謙虚な人柄。それらが、奇をてらわず丁寧に作られるお菓子と見事に調和している。
日々の生活で感性を磨きながら、優しく人を想う赤坂さんが心を込めて作るお菓子だから、食べる人もあたたかい気持ちになるのだろう。
Chez kumariへのオーダー依頼は、SNSから問い合わせ可能。販売イベント情報は、Chez kumariのFacebookとInstagramをチェックしてほしい。
SHOP INFO
writer & Photographer
吉野 なこ
Naco Yoshino
フォトグラファー/デザイナー/ライター。
素敵な人やサービスやを応援したくて、撮ったり書いたりしている。倉敷市在住、ときどき旅人。美しいものを見るのが好き。